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| 昭和の名人、柳家小さんを特集。人間国宝の名演をじっくり堪能ください。『落語の蔵』オリジナル音源多数!!(2008年6月20日掲載) |

ちりとてちん |
町内の通人が腐った豆腐を食べる噺が「酢豆腐」で、この「ちりとてちん」は「酢豆腐」を改作したものである。もとは上方落語の演目であったが、現在では東京でも多くの落語家が手掛ける人気作。小さんによる口演は、前半、のどかな宴の様子が描かれ、ほのぼのとした愉しさ。後半になって金さんが登場するが、この金さんもちょっと素直でないというだけで、悪人ではない。旦那と金さんのやりとりを、小さんは暖かく描いている。小さんは飲んだり食べたりする仕草がうまかったが、音声だけで聞いてもその情景が目に浮かぶようだ。 『東宝名人会』での録音。 〔東宝ミュージック音源〕 |

首提灯 |
落語の名人であり、剣道の名手でもあった柳家小さん。酒に酔った江戸っ子はもちろん、刀を抜く側の侍の描写も素晴らしく充実している。斬る側の思い切りと気合い。その緊迫感が録音を通じて伝わってくる。マクラの部分では辻斬りされて真っ二つになった人間の転職先を描いた「胴斬り」の小咄も演じている。大変な状況を淡々とした口調で描写するのがおかしい。 番組名『辛口名人会』 |

粗忽の使者 |
江戸時代から伝わる古い滑稽噺で、鉄のような尻を釘抜きでねじるバカバカしさの半面、「口上を忘れたくらいで腹を切らせちゃ可哀想だ」という庶民の情感が根底にある。職人、粗忽な武士、屋敷の重役と演じ分ける難しさもあって名作とされている。粗忽者の巧かった小さんはこの噺でも、口上を忘れた事すら忘れてしまう治武衛門のトボケタ味わい、三太夫の無骨な堅苦しさ、自分の本名も知らない留っこの能天気さと、三者三様の面白さを見事に描き分ける。更に終盤、釘抜きで尻をねじ上る際、「これでどうだ!」「痛み耐えがたし!」という遣り取りで顔が真っ赤に染まる様子は、小さんならではの至芸だった。 |

高砂や |
一昔前まで、結婚式で謡曲の「高砂」や「鶴亀」を謡う人が多かった。そうした風習を下敷きにした落語である。江戸時代の結婚は家同士の結びつきという側面が大きかったので、そのあいだに立つ仲人は大役だったという。持参金の一部がお礼として仲人に支払われたので、仲人を仕事として請け負っていた人もいたという。柳家小さんの代表作のひとつ。 番組名『辛口名人会』 |

試し酒 |
この噺は落語研究家の今村信雄が昭和初期に創作した新作落語だと言うが、よく出来ていて、現在では古典の仲間入りをしていると言ってもいい。小さんは酒を飲む仕草や表現がうまかったが、この噺ではそれを十二分に堪能できる。五升の酒をただ飲むだけでなく、その間にほら話が入ったり、都々逸が入ったりと趣向も多く、飽きさせない。久蔵の人をくったような木訥な味が楽しいが、次第に廻ってくる酔いの描写や大詰めのたたみ掛けなど、小さんの演出は繊細で冴えている。『辛口名人会』での録音。 |

千早振る |
登場人物は男と隠居の二人だけ、場面は長屋の一室から動かない、というシンプルな設定の噺だけに、演者の力量がものを言う。小さんは淡々とした口調ながら、ときに静かに、ときに畳み掛けるといった緩急自在の語り口で情景を描く。ひと昔前まで、百人一首は日本人の基礎教養だった。ふざけた和歌の解釈を笑う教養の高さが江戸庶民にはあったということである。 番組名『辛口名人会』 |

長屋の花見 |
春の噺の代表作である。この長屋の住民たちは、今日の飯にも困る貧乏人揃いだが、大家さんの提案した「見立て」の遊びに一生懸命付き合い、めいめいに花見を楽しんでいる。貧乏も笑いで吹き飛ばす価値観が、まさに落語の真骨頂である。小さんの口演は、長屋の貧乏ぶりを描写する冒頭からくすぐりが多く楽しい。上野の山へ行ってからは、みんなぶつぶつと愚痴りながらも、大根の漬け物や沢庵で番茶を飲んでいる情景が風流と言ってもよい内容。江戸庶民のユーモア、洒落の精神が小さんの口演によってよく表現されている。『辛口名人会』での録音。 |

花見の仇討 |
年中行事のたびに趣向を凝らした江戸っ子の暢気さを描き、毎年春には必ず演じられる名作。原典は江戸の戯作者・瀧亭鯉丈作の『八笑人』という古い落語で、全編、おかしな失敗談の連続だが、職人4人、侍2人、耳の遠い叔父さん、敵討ちを取り巻く群集と登場人物も多く、演じるには難しいネタである。職人を得意とした小さんだけに六部が現われないため残る3人が困り果てる様子が実におかしい。また、助太刀の侍2人がギラリと刀を抜く場面では、実際に剣道七段の腕前だった小さんらしく、他の演者にない迫力が感じられる。 |

普段の袴 |
侍ものが上手かった柳家小さんの口演。音だけしか残っていないが、おそらく紋付き、袴で演じたものと思われる。侍の品格の高さ、鷹揚とした感じが小さんの至芸によって描かれている。真似をする間抜けな男の行動も、ほのぼのとして楽しい。噺の中に出てくる谷文晁は江戸後期の画家で、いまでも評価が高い。
番組名『辛口名人会』 |

湯屋番 |
「船徳」「紙屑や」など落語にいくつかある「居候もの」のひとつであり代表作とも言える噺である。この噺の若旦那は、その日暮らしの居候だが、緊張感はまったく無く「雀の缶詰事業」を空想しているところがまことにばかばかしく楽しい。小さんは雀の台詞なども軽快に描き、上質のほら噺を聴く面白さ。後半、湯屋に舞台が移ってからも若旦那の空想はとまらず、実在しないお嬢様との出会い、再会、驟雨のなかの色模様などトントンとエスカレートするさまを巧みに描いている。演劇で言えば「劇中劇」にあたる部分が大きい噺だけに、じつは演じるのが難しい噺でもあるが、小さんは卓越したテクニックでさらりと聴かせてくれる。 |
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